Japanese / English

     
ISSPpic
 
 
 
 

   磁性体の磁気的秩序は、各原子の電子のスピンが特定の方向に凍結して磁気双極子モーメントが発現する形で実現するのが普通です。系の量子力学的揺らぎが非常に大きな場合に出現するかもしれない新しいタイプのスピン秩序の研究をしています。

 それは磁気双極子モーメントは消失しているがスピン空間の回転対称性が破れた状態です。特にスピン演算子の2次のモーメントで表される4重極子が発現する状態を研究しています。この状態では、スピンはある方向にその垂直方向より向き易いか逆に向き難いのですが、正反対方向を向く確率は全く同じなので磁気双極子の出現している状態と異なっています。これは液晶において棒状高分子の向きが揃う状況に類似していて、スピンネマティック相と呼びます。

 スピンネマティック相の量子揺らぎを調べ、スピン回転対称性の破れに伴って出現するゴールドストンボゾンのエネルギーを計算し、2次元系での比熱が低温で温度の二乗に比例する詳細を明らかにしました。また、帯磁率が低温でも抑制されない点で反強磁性長距離秩序状態と類似しているにもかかわらず、磁気揺らぎのスペクトルが零エネルギーに向けて消失することも示しました。

 この理論解析を最近発見された三角格子スピン液体物質NiGa2S4の実験結果と比較しました。この物質の中性子散乱実験、比熱や帯磁率の実験結果は、通常の磁気秩序描像では説明できていなかったのですが、ネマティック秩序の存在を考えることでほぼ説明できることを明らかにしました。