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重い電子系におけるメタ軌道転移

  希土類やアクチノイド元素を含む物質は、その局在性の強いf電子軌道間の大きなクーロン反発力の為に、磁気的に秩序した状態になることが一般的であった。近年では、希土類元素を含む化合物を用いた強力な磁石が販売されており、その典型例になっている。しかしながら、1979年にSteglichらによりCeCu2Si2が超伝導転移を示す事が報告されたのを皮切りに、その後の約30年の間に多くの希土類化合物が主に圧力下で超伝導転移を示すことが確認されており、磁気秩序相の近傍で磁気的な揺らぎを媒介とした超伝導が現れる事は現在では良く理解されている。これら一連の希土類やアクチノイド化合物は、その大きなクーロン反発力により電子比熱係数が通常の金属の100-1000倍にもなり、有効質量が非常に重くなった電子が存在するとみなす事ができ、“重い電子系”として知られるようになっている。  これらの研究の流れの中で、1990年代後半からCeCu2Si2やCeCu2Ge2といった一連の化合物において、図のようにその超伝導転移温度が圧力下で顕著な増大を見せることが明らかになってきた。また、超伝導転移温度が最高になる圧力では残留抵抗の増大などの種々の特徴的振る舞いが観測されている。この超伝導状態は量子臨界点と呼ばれる磁気秩序の転移温度が絶対零度まで下がった点から離れて発現、もしくは独立に二つの超伝導“ドーム”として発現しており、磁気秩序相近傍での磁気揺らぎ媒介の超伝導状態とは異なる可能性があり近年注目を集めている。

我々は、 CeAl2やCeCu2(Si,Ge)2といった低エネルギー結晶場励起状態を持った重い電子系物質の微視的模型の低温電子物性およびその有効模型の性質を詳細に調べた結果、メタ軌道転移と呼ばれるf電子の結晶場状態つまり軌道自由度の変化が起き得ることを指摘した。また、このメタ軌道転移の臨界点近傍の揺らぎの理論を展開し、その揺らぎによる超伝導発現の可能性が提案した。古くから、軌道自由度(結晶場励起状態)を持つf電子系物質では、高エネルギー側のエネルギースケールが複数存在することが知られている。これらは電気抵抗の温度依存性のピーク等で決定する事ができる。これらのピークは、f電子のスピンと伝導電子のスピンとの散乱の結果生じる所謂近藤効果によって現れ、その温度は近藤温度と呼ばれる温度に対応している。実際に観測されている近藤温度の圧力依存性は、図の近藤温度1、および近藤温度2の線の様であり、高圧側で二つが合流し一つの近藤温度になる。CeCu2(Si, Ge)2では、最高の超伝導転移温度が実現する圧力が正に二つの近藤温度が合流する圧力になっている。本研究ではこのような点を発端に、CeCu2(Si, Ge)2の超伝導機構の可能性として、二つの近藤温度が合流する領域でのメタ軌道転移臨界点近傍の軌道揺らぎを指摘した。理論的には、微視的模型を用いた超伝導転移やその対称性の詳細な計算などの今後の発展が待たれる。

 

 

 

 

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