電子が結晶中を動き回ることのできる金属状態にある場合にフラストレーションの効果がどのように現れるのかを明らかにするのは、重要な問題です。我々は、パイロクロア格子とともにカゴメ格子上のハバード模型を対象に、電子の強相関効果を取り入れた計算を行っています。具体的にはFLEXやクラスター動的平均場法という手法を使っています。
原子当たり電子が1個の密度の場合には、電子間のクーロン斥力が強くなると絶縁体になるモット転移が起こりますが、フラストレーションが強い場合には強相関効果による電荷揺らぎの抑制が小さくなり、金属状態の安定性が維持されます。この時、フェルミエネルギー近傍には有効質量の重い準粒子が形成されることをグリーン関数の計算により示しました。
さらに興味深い結果は、モット転移近傍のスピン揺らぎです(右下図)。転移点の極近傍では、1次元的な準長距離相関が出現することがわかりました。この場合、カゴメ格子を構成しているある方向に走る鎖は各々、ネール的な準長距離スピン相関を示しますが、鎖間にはほとんど相関が無いという極めて特異な特徴を持っていることを明らかにしました。
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